東京高等裁判所 昭和29年(う)3140号 判決
被告人 櫛笥一臣
〔抄 録〕
控訴趣意第一点について。
貸金業等の取締に関する法律第七条の立法趣旨は、貸金業者が不特定多数の者から受入れた預り金を貸付資金に使用し、その貸金が回収不能に陥つた場合に預け主に対し不測の損害を蒙らしめることを防止しようとするにあるのであつて、同条にいわゆる預り金、即ち不特定多数の者からの金錢の受入で預金、貯金、掛金その他、何らの名義を以てするを問わずこれらと同様の経済的性質を有するものとは、名義の如何を問わず元本を確実に返還する旨の明示又は黙示の合意の下になされた不特定多数の者からの金銭の受入を総称するものと解するのが相当である。今本件についてこれを見るに、被告人櫛笥一臣が原判示倉茂重義等から原判示金員を受入れるに際し、出資金又は融資金等の名義を用いたことは所論のとおりであるが、原判決挙示の証拠によれば、同被告人は右募集に当り、安全有利な利殖の方法として被告会社への出金方を勧誘し、右出金者等も相当の利息を附して確実に元本の返還を受け得るものと信じて原判示金員を被告人に交付したものであつて、出資金又は融資金等の名義を用いたのは、単に法律の禁止を免れる手段に過ぎなかつたことが明らかであるから、同被告人の右所為は、前記法条にいわゆる預金、貯金、掛金等と同様の経済的性質を有する金銭の受入に該当するものといわなければならない。又前記証拠によれば、右被告人は、出金者募集の範囲を特定の者に限定することなく、広く多数の一般人から出金者を募集したことが明らかであるから、同被告人は不特定多数の者から原判示金員を受入れたものというべく、偶々右出金者のうちに被告会社又は被告人櫛笥一臣と特殊の縁故関係のある者があつたとしても、これがため出金者が不特定多数であることを否定することはできない。従て被告人櫛笥一臣が被告会社の業務に関し不特定多数の者から預り金をしたという原審の認定は相当であつて、所論のような事実誤認又は法令違反の違法はなく、論旨は理由がない。